この記事を書いている人
税理士 堀 龍市
投資専門会計株式会社 代表取締役
税理士(近畿税理士会所属 登録番号092469番)
FXや仮想通貨、株式やバイナリーオプション等、投資の税金対策や法人化に精通。
有名トレーダーをはじめ全国の投資家らの税務顧問を多数担当し、専門誌での連載などメディア実績多数。
業務にはオンラインも活用し、北は北海道から南は沖縄の離島までクライアント実績を持つ。
FXトレードを行うにあたっては、法人口座を使った方が、レバレッジや税金面でも有利だと一般的には言われていますので、毎月行っている弊社の無料相談会でも、法人化に関するご相談をよくいただきます。
ただ、中には既に法人口座を開設され、トレードされている方も来られますが、実は法人化しただけでは全く意味がないばかりか、逆に損をされているケースも中にはあります。
今回はそんなメリットが大きい反面、扱い方を間違えると損をする可能性もあるFXの法人について、具体的な相談内容とその解決策について解説していきます。
FX法人化のメリットとデメリットについて
まず、個人口座に比べて、法人化してFXを行うことで、幾つかのメリットが生まれてきます。具体的には
- レバレッジ規制を回避できる
- 損失を10年間繰り越せる(個人は3年間)
- 他のビジネスなどと損益通算できる
- 個人口座よりも効果的な税金対策が可能になる
一方でデメリットとしては
- 法人設立費用(約30万円)がかかる
- 税理士費用や法人住民税などの維持費がかかる
といったことが挙げられます。これらの具体的な内容については、以下の関連記事にまとめていますので、あわせてそちらもご確認下さい。
関連記事:「知らないと危ない?FX法人化のメリットとデメリットを専門家が解説」
FXは法人化しただけでは意味がない!
今回は、上記にあるFXの法人に関するメリットやデメリットから更に突っ込んで、具体的な活用法について解説していこうと思うのですが、冒頭にも書きましたように、FXの法人というのは、会社を設立して法人口座を使ったからと言って、それだけで税金面でも有利に働くわけではありません。
関与する税理士や会計士に一定以上のFXに関する知識があることはもちろんのこと、それらに関する税金対策や税務調査対策などのスキルや、実践経験が豊富にあるかどうかで法人化の効果に大きな差が出てきます。
法人化が逆効果になることも?
以前、東京の無料相談会に来られた方からこんな相談を受けました。
「個人口座と法人口座の両方を使ってコンスタントに利益を上げているのだけれど、口座資金も増えてきたし、今後は税金のことを考えて個人口座で取引していこうと思っています」
とのこと。恐らく個人口座の税率が20%だというのを元に考えられたのでしょう。
税金面において、全ての方にとって必ずしも法人口座でのトレードが有利とは申しませんが、この方の場合は、法人口座で既にトレードをしているというだけで、資料を拝見させて頂いても、大した節税対策はされていないようでした。
過去の相談事例から見ても、この方に限らず節税に有利という情報を聞いて、法人口座でのトレードを始めたけれど、あまり節税の効果を感じられず、結局は個人口座でのトレードでも良かったかなと相談会で質問をされたり、しっかりと節税すべく、他の税理士さんから弊社へ乗り換えられる方もおられます。
ポイントは、実際の数字を元にシミュレーションしてみることが大切です。
同じ取引で個人口座と法人口座を使った場合の比較
単純に税率の問題で、国内証券会社を利用した場合に個人口座で行うFXの税率は、一律20.315%ですが法人口座で行うFXの税率は22.86%~38.37%となっています(※法人での税率は所得額によって上記の範囲で変わります)。
つまり、FXで300万円の利益を上げた場合、何も節税対策をしていないと、
- 個人:300万円×20.315%=約60.9万円
- 法人:300万円×22.86%=約68.5万円
と約7万6千円も法人の方が税金が高くなってしまいます。
検索サイトやブログ等でも、税金対策なら法人でのトレードが有利!と広告されているのを私もよく目にしますが、それは弊社に限らず『専門家によるしっかりとした節税対策を行えば』という条件の元、言えることなのです。
今のを法人口座を使って節税を行うと?
一つの基本的な節税例で考えますと、奥様に手伝ってもらって年間100万円のお給料を支払ったとしましょう。
奥様が専業主婦(無収入)であればお給料をもらった方に対して税金はかかりませんので、法人での経費が100万円増えて、税金のかかる金額が200万円になることになります。
そうすると税金は、
(300万円-100万円)×22.86%=約45.7万円
となり、個人でトレードしている場合に比べ、法人の方が約15万2千円、税金が下がることになります。
ここでは非常に初歩的な節税対策として、単純に100万円お給料を支給しただけですが、もちろん実際にはお客様のトレードスタイルはもちろん、家族構成や今後の展望など、詳しい状況をお聞きした上で、最も節税に効果的な税金対策をしっかりと積み重ねることで、更なる節税が可能となります。
そもそも個人と法人とでは経費の定義が違う?
FXの節税を考える際、質問でもよく頂くことですが、いかに「経費を計上できるか」が一つのポイントとなってきます。ですが、個人と法人とでは、この「税法上の経費」の定義が実は異なっているのです。
少し難しい解説になりますが、個人の場合には、所得税法第37条により、
「その年分の雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額を得るため【直接】要した費用の額とする。」※一部省略、抜粋しています。
と定められています。
これに対し法人の場合には、法人税法第22条3項により、
「内国法人の所得の金額の計算上損金(経費)の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
(1)収益に係る原価
(2)販売費、一般管理費、その他の費用の額
(3)[省略]
※一部省略、抜粋しています。
と定められています。
要約しますと、個人口座でトレードをしている方にとって重要なポイントは、FXで利益を得るために【直接】要した費用かどうかということになります。
FX以外にも株式投資や不動産投資をしていたり、投資とビジネスを一緒にしておられる方の場合ですと、それらの経費を一緒にして考えてしまいがち(明確に区分していない)ことも多いようですが、あくまでFX取引に直接的に関わっているもの以外を経費とすることは出来ません。
一方で法人口座でトレードをしている方の場合は、法人の事業に関連している費用であれば経費にすることができます。法人はそもそも事業を行う目的のものですから、このような規定になっているわけです。
だからこそ、個人で取引するよりも、法人で取引する方が、計上できる経費が圧倒的に増えますので、より税金対策が行えるというわけです。
ただ注意点としては、いくら法人の事業に関連していればと言っても、定款に事業目的として記載しただけで、実際に行なっていない事業に関連した費用は、経費とは言えませんのでご注意ください(例えば、定款に車を使う事業を目的として記載したとしても、実際にその事業を行なっていなければ、車を経費として計上することはできません)。
その他、具体的に経費として計上できるものや、税務署の判断基準などについては、以下の関連記事にまとめていますので、あわせて確認しておくようにして下さい。
※この度、所得税の改正通達があり、FXや暗号資産における経費の範囲が縮小されました。新しい情報はリンク先の記事をご参照下さい。
>>>『【悲報】FXや仮想通貨(暗号資産)の経費が認められなくなった?』
《関連記事》
「税理士が教えるFXの確定申告で経費として計上できるものとは?」
「FXの確定申告で必要経費となるもの、税務署の判断基準とは?」
「FX税金の確定申告でスプレッドや手数料は経費になる?」
FXと他の事業を同一法人で行った方が良いか、分けた方が良いか?
FXの法人を設立される際、ご相談でよく頂くのが
「FXとそれ以外の事業を1つの法人で行ったほうが良いですか、それとも別々に法人化して行ったほうが良いのでしょうか?」
というものです。
多いケースとしては、既に何かのビジネスやお商売をされていて、法人をお持ちの場合、そこにFXも入れてしまおうか悩まれている場合や、個人でFXとネットビジネスをやっているけれど、それを同一法人でやるのが良いのか、分けた方が良いのか悩まれている方などです。
結論から申しますと、FXとそれ以外の事業を1つの法人で行う場合と、別々の法人で行う場合では、それぞれにメリットとデメリットがあるため、一概にどちらが良いと言い切れるものではありません。以下に解説していきますので、皆さんの状況や見通しと照らし合わせて検討されてみて下さい。
FXとそれ以外の事業を「一つの法人で行った場合」
経費や損益をまとめて通算できる
このケースのメリットは、何と言ってもFXと事業、それぞれの売上(FXの場合は為替差益等)や必要経費を、法人の場合は一つの入れ物でまとめて管理できることでしょう。先ほどご紹介した法人での「経費」の定義を最大限に活用する方法です。
ちなみにFXと事業、それぞれを個人事業として行っていた場合、FXの所得は雑所得(国内業者を利用した場合は分離課税)、事業は事業所得と所得の区分が異なりますので、FXの所得は為替差益やスワップ益などから、FX取引のために要した費用(経費)を差し引いたものと、事業の所得は、売上から事業に関連する費用を差し引いたもの(経費)とを別々に計算し、それぞれの収入・経費、損失を合算・相殺することはできません。
一方、それらを一つの法人で行っていれば、前述の通り、FXと事業の収入や経費を一つの入れ物で管理するため、合算・相殺が可能になります。
例えば、事業では黒字だけれど、FXでちょっと失敗をして損失を出してしまった場合、一つの法人であれば、事業の利益とFXの損失を相殺させて税金を抑えることができます(上記の通り、個人の場合は例えFXでマイナスが出ていても、相殺することが出来ませんので、FXではマイナスが出ていても、事業の黒字分には、しっかりと税金がかかってきてしまいます)。
ちなみに、FXを個人事業として青色申告しようとお考えの方がたまにおられ、出来なくはないとおっしゃる税理士さんや会計士さんもおられるそうですが、専門家からすればそれは非常に危険な行為です。
検討されている方はこちらもご覧下さい。
関連記事:「FXを個人事業として青色申告することのリスクとは?」
法人住民税も1社分で済む
他に、法人には法人住民税の均等割といって、黒字・赤字に関わらず一定の税金(年間で約7万円程度、地域により多少異なります。)が課税されるのですが、一つの法人であれば均等割は1社分で良いことになります。
FXとそれ以外の事業を「別の法人で行った場合」
では一方で、FXと他のビジネスとで法人を分けた場合はどうでしょう。
損益や経費を通算できない
基本的には1つの法人で行った場合の逆になりますので、FXの収益・損失や経費と事業の売上や経費を合算・相殺することができなくなり、当然、法人住民税の均等割も2社分必要になります。なのでこれはデメリットと言えるでしょう。
法人を分けるメリットとは?
上記のデメリットから、法人は一つにすべきという税理士さんや会計士さんがほとんどのようですが、法人を分けることにも実はメリットはあります。
法人税は所得800万円を境目に、税率が15%から23.4%となりますが、FXと事業でそれぞれ利益が出ている場合、金額によっては法人を分けていることで、それぞれの法人で15%の税率の部分を使えることになります。
ただし、全ての場合において、単純に法人を分ければよいということではありませんので、大切なのは
- 数字を元に事前にシミュレーションしてみること
- 今後のFXと事業の見通しも考慮して行うこと
です。単年でメリットが出たとしてもあまり意味がありませんので、中・長期的に考えて判断する必要があるでしょう
(ただし関連記事にも書きましたが、もし業績が悪くなった場合、弊社にはお金をかけずに法人を休眠させて、法人住民税などの維持費もかけないノウハウもありますので、そこで片方に集中させる選択肢があることを考えると、さほどリスクはありません)
つまり、FXの法人を考える際、一般的には「個人」か「法人」かの二択のように扱われることがほとんどですが、現場の経験から申しますと、それ以外にも「複数の法人を設立して分ける」や「予測からズレた時には会社を休眠させる」など、複数の選択肢があるということをぜひ覚えておいて下さい。
最も大切なのは「税金」ではなく「FXトレード」を主軸に考えること
ここまで、税金の側面からFXの法人化について解説してきました。それほどメリットとしては大きなものです。但し、決して間違えてはいけないのは、法人化は一つの手段であって、目的ではないということです。
世の中には税理士さんや会計士さんもたくさんいらっしゃいますので、FXの税金や法人化に詳しいですよとおっしゃる方もおられるでしょう。但しそれらのことに詳しくて、対策が出来たからと言って、トレード全体が上手く回るとは限りません。
無料相談会などでお話を伺わせて頂いていて感じるのが、FXというのは絶対に「投資家さんが主軸」だということです。
例えば弊社では、含み損をかかえる可能性のあるトレード手法だということから、年末に決済ポジションだけに税金がかかる個人口座ではなく、期末に未決済ポジションも含めて申告する法人口座の方が、未決済の含み損も通算できるからという理由で法人口座をご提案し、使われている方が何名かおられます。
つまり「トレード手法」 → 「それに合った節税法をご提案」という流れですね。
ただ逆に、個人よりも法人口座の方が税金面では有利だから、節税法を知っているからと、それに合わせて投資家さんが、トレード手法を変更しなければならないようなことがもしあったとしたら、これはFXを扱う税理士として失格だと思うわけです。
つまり法人、個人など口座や税金の問題だけでなく、トレード時間や取引通貨、また、スイングやデイトレード、スキャルピングなどの保有時間の他、「両建て」や「つなぎ売買」など、トレーダーにとってトレードスタイルというのは非常に大切なものだと弊社では考えています
(以前に相談に来られた、個人口座をお使いで、普段は両建てを使った長期スイングの方が、申告のために、毎年年末に向けてポジションをわざわざクローズしているという方もおられましたが、これらも関与している税理士が、税金のことを分かった上でご提案できていれば、そんなムダなことをして頂く必要はなかったケースだと言えるでしょう)。
よく相談会でお会いした方が「そんな作業も全てやって頂けるんですか??」と驚かれることがありますが、相談会やシミュレーション資料の作成など、事前に全て無料で行わせていただいているのもそうですし、またご契約後も、帳簿付けや領収書の整理、レート換算など、クライアント様に一切強いることなく、全てこちらでやらせて頂いているのも、投資家さんが税務申告のことで手を煩わせることなく、チャート分析やトレードに集中でき、安心してFXを行えることが最も大事だと考えているからなのです。
そういった意味でも、節税や法人化のことは元より、安心してトレードに集中できるかも、しっかり考慮して選択することが大切だと言えるでしょう(2016.8.18)。
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※上記の内容は記事発行時のものです。税法は毎年変わります。現在のリアルタイムな税金対策の内容や、何かご不明な点がございましたら、お電話や以下のメールフォームからお気軽にお問い合わせ下さい。また、今よりどれだけ節税できるかの目安となる「シミュレーションのサンプル資料」を無料で差し上げております(もちろん相談されても、こちらから契約を迫ったり、セールスや勧誘等を行う事は一切ございませんのでどうぞご安心下さい)。