FXや仮想通貨の電子帳簿保存法

世間では「インボイス」や「電子帳簿保存法」の完全義務化で、会計や経理ソフトの会社のTVCMがたくさん流れていますので、その言葉を見聞きされたことがある方も多いでしょう。

今回のテーマである「電子帳簿保存法」は当初、令和4年1月1日からの施行の予定だったものが、令和6年1月1日に延期されました。

またここ数年、新型コロナウイルスの感染拡大と共に、非接触な対応が増えた影響もあってか、様々な分野でペーパーレス化に拍車がかかった印象がありますが、領収書や請求書を紙ではなく、PDFなどのデータで受け取るケースが増えた方も多いかと思います。

電子帳簿保存法では、データで受け取ったものはデータで保存しなければならず、ほとんどの事業者が対象になると考えられます。

中には電子データで授受すると、一定要件の下、データでの保存が必要になるため、面倒でやりたくないと思われる事業者さんもおられるかもしれませんが、残念ながら義務ですので対応する他ありません。

今回は、FX取引や暗号資産(仮想通貨)取引を行っている方にとって、この電子帳簿保存法はそもそも関係があるのか、また、実際にはどのような対応が必要になるのかについて解説したいと思います。

 

FXや仮想通貨も関係ある?電子帳簿保存法の対象範囲は?

今回、解説させていただく電子帳簿保存法の対象となるのは「電子取引をする事業者全員」となっています。

「事業者」ですので、個人事業(ビジネス)をされている方や、法人が対象となります。

そのため、雑所得(その他)で申告している方は該当しません。

なので、「自分は個人口座(雑所得)でトレードをやっているから関係ないな」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、日頃からご相談を受けている中で、FXや仮想通貨などの投資で利益が増えてくると、法人化を検討されることは一般的なことですので、もし法人化した場合、その法人で行っている事業内容が何であれ、電子取引の保存は義務となることから、今すぐ対応が必要ないとしても、どういった対応が必要になるかは、ぜひ見ておかれることをおすすめいたします。

尚、FXや仮想通貨取引を個人事業(青色申告)として申告することは税務上リスクがあると考えますので、ご存知ない方は以下の記事をご参照下さい。

関連記事>>>『税理士が教えるFXを個人事業として青色申告することのリスクとは?』

そもそも電子帳簿保存法とは?

電子帳簿保存法とは、帳簿や領収書などを電子データで保存する際のルールを細かく定めたもので、従来はこの電子帳簿保存の対応は、任意(希望者だけが行うもの)でした。

しかし令和6年1月1日以降、税務上は電子データで授受したものを紙に印刷して保管する事ができなくなり、電子データでの保存が「義務」となります。

では具体的に電子取引にはどのようなものが該当するのでしょうか。

電子取引とは?

冒頭から何度も出てくる電子取引ですが、令和6年1月1日以降は、電子データで授受したものを、紙に印刷して保存することはNGですので、必ずデータでの保存が必要になります。

国税庁の一問一答では電子取引について以下のように例が書かれています。

  • 電子メールによる請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)を受領
  • インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)又はホームページ上に表示される請求書や領収書等のスクリーンショットを利用
  • 電子請求書や電子領収書の授受に係るクラウドサービスを利用
  • クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードによる支払データ、スマートフォンアプリによる決済データ等を活用したクラウドサービスを利用
  • 特定の取引に係るEDIシステムを利用
  • ペーパーレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用
  • 請求書や領収書等のデータをDVD等の記録媒体を介して授受

引用元:国税庁 電子帳簿保存法一問一答 令和5年6月版 問4 一部抜粋

これらを見ていただいて、該当するなと思われたものも多いのではないでしょうか。

こういったデータを授受した場合、電子データのまま保存する必要があるのですが、重要なポイントとして、ただ単に受け取ったPDFをパソコンに入れておけばOKとはならないのが、今回の電子帳簿保存法の厄介なところなのです。

電子帳簿保存法のデータ保存のやり方や要件とは?

電子取引のデータを保存する場合、真実性や可視性を確保しなければならず、そのための要件があります。

  1. 自社開発のプログラムを使用する場合、電子計算処理システムの概要を記載した書類の備付けが必要
  2. 一定のディスプレイやプリンタ等の見読可能装置の備付けが必要
  3. 検索機能の確保
  4. 改ざん防止措置を行う

まず、1.については、自社開発のプログラムを使用されていない場合は不要です。

2.については、主にパソコンを使用して業務を行う事業者の方であれば、すでに要件を満たしている場合がほとんどかと思います。

もしスマートフォンでのみ取引を行っている場合でも、保存に使っているスマートフォンがあれば、電子計算機、プログラム、ディスプレイの備付けに係る要件は充たしていますので、プリンタがその場に無くても、近隣の有料プリンタ等で速やかに出力できれば、それだけをもって要件違反とはなりませんので、ほとんどの方が対応可能であると考えます。

そのため、多くの方にとって新たに対応が必要になるのは、3.と4.かと思いますので、これら2点について見ていきましょう。

電子帳簿保存法では検索機能の確保が必要?

受け取ったPDFをそのままパソコンに保存しているだけではダメだと書かせていただいた理由の一つは、検索機能の確保が必要となるためです。

受領したままの状態で保管している場合、ファイル名もバラバラで、保存している場所も一定の場所でないとなると、このままでは税務調査になった際に速やかに提出することができませんので、その対応が必要になります。

その検索方法の具体例ですが、国税庁のサイトではこのように書かれています。

  1. 請求書データ(PDF)のファイル名に、規則性をもって内容を表示する。
    例) 2022年(令和4年)10月31日に株式会社国税商事から受領した110,000円の請求書
    「20221031_㈱国税商事_110000」
  2. 「取引の相手先」や「各月」など任意のフォルダに格納して保存する。

引用元:国税庁 電子帳簿保存法一問一答 令和5年6月版 問16 一部抜粋

例えば自社で作成する領収書や請求書のファイル名は、規則性をもたせて保存する事ができますが、受け取る方は、FX業者や暗号資産の取引所によってバラバラのファイル名で届くことになるでしょう。

それを上記の例のようなファイル名に変更し、保存するとなると、難しい作業ではありませんが非常に手間がかかることになります。

改ざん防止の措置が必要

次に真実性の確保についてですが、改ざん防止のための措置が必要で、以下の4つの内、いずれかで対応することになります。

  • タイムスタンプが付与された電子データを受け取る
  • 保存するデータにタイムスタンプを付与する
  • データの授受と保存を、訂正削除履歴が残るシステムやそもそも訂正削除ができないシステムで行う
  • 電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程を定めた上で、規程を遵守する

ちなみに上から3つの方法は、システムを利用する費用が発生してしまうため、一番お金をかけずに対応するには、4つ目の改ざん防止の「事務処理規程を作成する」方法がお勧めです。

ただ一つ考えておくべき事として、今後事業規模の拡大や取引数が多くなり、訂正や削除が増えるとその度に、以下の内容を記載した書類(取引情報訂正・削除申請書)を作成し、保存しておく必要があるため、結構な手間になってしまいます。

  1. 申請日
  2. 取引伝票番号
  3. 取引件名
  4. 取引先名
  5. 訂正・削除日付
  6. 訂正・削除内容
  7. 訂正・削除理由
  8. 処理担当者名

引用元:国税庁 電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程 一部抜粋

そのため、多少の費用はかかっても、訂正削除の履歴が残るシステムなどを利用して保存する方が、将来的には事務処理の負担が少なくなる可能性もありますので、例えばFXや仮想通貨以外に事業をされている方など、ご自身の状況にあわせて、最適だと思われる方法で対応されるのが良いかと思います。

なお、「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」は、国税庁のサイトにサンプルも用意されています。

関連リンク>>>『国税庁 参考資料(各種規定等のサンプル)』

もし保存対応しなかった場合は罰則はあるの?

実は電子帳簿保存法では、保存対応等をしていなかった場合の税法上の罰則が強化されています。

その罰則は「青色申告承認申請の取り消し」です。

青色申告承認申請の取り消しについて

電子取引のデータ保存が無かったからと言って、すぐさま青色申告の承認申請の取り消しとはならないと国税庁も発表はしていますが、その違反の程度を総合勘案して、不十分だ、悪質だと判断されれば取り消しの対象となり得るため、事前に注意が必要です。

FXや仮想通貨取引で法人化した場合や、その他のビジネスを行うケースでも、事業を継続していく上で、青色申告承認申請の取り消しというのは非常に重い罰則です。

実際に青色申告承認申請が取り消された場合、どのような影響があるかと言いますと、まず1年間は再申請ができません。

1年間と言っても、取り消しされてから1年を過ぎなければいけませんので、タイミングによっては3年(期)も青色申告することができなくなります。

そして、この期間に発生した欠損金は繰り越せなくなるなど、青色申告のメリットを享受する事ができなくなり、納める税金が増えるなどデメリットしかありません。

仮に保存がされていたとしても、その内容が改ざんされている場合、以下のような罰則もあります。

重加算税が10%加算される

通常、申告に改ざんや隠蔽があった場合、35%の重加算税が課税されますが、電子取引の保存において改ざんや隠蔽があった時には、さらに10%を加算した45%が追徴課税されることになっています。

基本的に、改ざんや隠蔽だと判断されなければ重加算税は課税されないものですが、もし改ざんや隠蔽だと判断されれば通常よりも更に大きなペナルティとなるため、正しく保存しておくことが重要だと言えるでしょう。

関連記事>>>『FXや仮想通貨の無申告や脱税などペナルティの種類と対応策について』

まとめ

電子データで授受したものはデータで保存することが義務になりますが、そもそも紙で授受しているものは電子取引に該当しませんので、今まで通り紙のまま保管しておく形で問題ありません。

そのため、投資以外のビジネスもされている方などは、まずは取引先とのやり取りの中で、紙で保存することがNGになってしまう書類を把握するところから始めて、電子での保存漏れが無いようにすることが重要でしょう。

ちなみに任意ではありますが、紙で授受しているものをスキャンして電子データで保存するとなると、また別のルールが関係してきますので、取り扱いには注意するようにしてくださいね。

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