この記事を書いている人
税理士 堀 龍市
投資専門会計株式会社 代表取締役
税理士(近畿税理士会所属 登録番号092469番)
FXや仮想通貨、株式やバイナリーオプション等、投資の税金対策や法人化に精通。
有名トレーダーをはじめ全国の投資家らの税務顧問を多数担当し、専門誌での連載などメディア実績多数。
業務にはオンラインも活用し、北は北海道から南は沖縄の離島までクライアント実績を持つ。
弊社に寄せられるご相談で意外と多いのが、ご本人は
「今年は利益が出ていない」
と思っておられたのが実は思い違いで、利益が出ているけれど、他で損をしているから相殺されて申告しなくて良いと思っていたというケースです。
2022年の暗号資産(仮想通貨)を例に挙げますと、暴落に続く暴落で年始に550万円程だったビットコインも、年末には半分以下の220万円を下回るところまで落ち込みました。
その暴落の原因の一つとして、暗号資産交換業大手のFTXトレーディングが破綻したこともあげられるかと思います。
この記事をご覧の方の中にも、過去に暗号資産や海外FX、バイナリープションなどをトレードしていて、取引所や証券会社が破綻(廃業)した、出金できなくなった、突然ログインできなくなった、といった事例に出くわしてしまい、扱いに困ったという方も少なくないでしょう。
今回は、それらの業者が破綻して出金が出来なくなってしまった場合、他の利益と相殺できるのか、また暗号資産の取得価額がわからない場合の対処法等について、順に解説していきたいと思います。
FXや仮想通貨の業者が破綻して損した分は他の利益と相殺できる?
ご相談をお伺いしていると、以下のような状態になってしまったという方が一定数おられます。
- 業者や取引所が破綻した
- 業者にログインできなくなった
- 出金拒否にあっている
- 詐欺などで損をした
大抵の方が「損をしてるから申告しなくていいんですよね?」と聞いてこられますが、残念ながら、これらはどれもその年の利益と相殺するのは難しい内容で、トレードで100万円利益が出ていたけれど、100万円分損をしたので、相殺して今年はゼロですとはなりません。
詳しくは以下の記事にまとめてありますので、そういう状態だという方はご覧下さい。
関連記事>>>『暗号資産(仮想通貨)の盗難・紛失・詐欺など損をした時の税金は?』
FXや仮想通貨(暗号資産)の利益と相殺できるものとは?
所得税法上では、「暗号資産取引をはじめ、雑所得を生ずべき業務を行う際に生じた資産損失の金額は、その損失が生じた年分の雑所得の金額を限度として必要経費に参入する」とされています。
平たく言うと、FXや暗号資産の場合、トレードで得た利益とトレードで生じた損失は相殺が可能という事です。
これは皆さんご理解いただいているかと思いますが、先に記載したような損の金額も、同じく利益と相殺したいと思われるのも分からなくはありません。
ただ税法上は、単に出金が難しい状態にあるだけでは、資産に係る損失を計上する(トレードの利益と相殺する)ことはできないとされていて、受け取る権利がある間は、持っているものとして考えられます。
資金が減っているのに相殺できないのはおかしいじゃないか、とおっしゃられるケースもありますが、実際に資金をなくしてしまったという事実と、税金を計算する上で損失(マイナス)として扱うかどうかのルールは異なるのです。
相殺されるケースもある?
先に述べたように、FXや暗号資産等では基本的に、トレードの利益とトレードの損失は相殺が可能で、業者や取引所が破綻するなどして損をした場合の金額は相殺できない、と書かせていただきましたが、実は場合によっては相殺されるケースもあります。
この場合、「客観的に貸倒れが認識できる程度の事実」があるかどうかがポイントになります。
法律上の貸倒れの例
一つ例を挙げますと、法律上の貸し倒れの場合、「会社更生法の更生計画認可の決定や、民事再生法の再生計画認可の決定により、切捨ての事実が発生した日の属する年分の計上」となっています。
今回、会社更生法や民事再生法の詳細な説明は割愛しますが、つまり誰が見ても回収が不可能だということが判明して初めて、その年の損失として計上できるというわけです。
破綻した取引所や証券会社から、後々補填(補償)がされるケースもゼロではありませんし、補填されれば損失にはなりませんので、何も決まらないうちに損失として計上することはできないのです。
関連記事>>>『仮想通貨が流出したら税金の確定申告は必要?投資に強い税理士が解説』
確定申告の際、収支の計算はどうすれば良いの?
前章で解説した通り、相殺できないのは仕方がないとしても、取引所や証券会社からデータを出せずに困っておられるケースもあるでしょう。
例えば、暗号資産の収支の計算を行う上で、データの取得が可能かどうかは非常に重要で、弊社が暗号資産の収支計算を依頼しているシステム会社でも、データが揃わないとエラーが出て集計が出来ません。
多くの方は、そんなことを言われても、出せない時はどうすれば良いの?と困惑されるでしょう。
実は国税庁が公表している「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」の中で、取得価額が分からない場合の取り扱いについて、どのように確認するのか次のように記載されています。
国内の業者(取引所)の場合
国内の暗号資産交換業者を通じた暗号資産取引は、年間取引報告書の交付を国税庁から依頼されていますので、その報告書から確認するよう記載されています。
また、お手元に年間取引報告書がない場合は業者に再交付を依頼するように書かれていますが、もし発行されない場合は、次の方法で確認する事になります。
海外の取引所や個人間のやり取りの場合
国内の業者や取引所は、上記のような報告書があるので比較的確認がし易いかと思いますが、海外の業者や取引所、また個人間のやり取りの場合、年間取引報告書が出ないケースが多々ありますので、その場合は取引データが重要になってきます。
- 暗号資産を購入した際に利用した銀行口座の出金状況や、暗号資産を売却した際に利用した銀行口座の入金状況から、暗号資産の取得価額や売却価額を確認する。
- 暗号資産取引の履歴及び暗号資産交換業者が公表する取引相場(注)を利用して、暗号資産の取得価額や売却価額を確認する。
(注) 個人間取引の場合は、あなたが主として利用する暗号資産交換業者の取引相場を利用してください。
確定申告書を提出した後に、正しい金額が判明した場合には、確定申告の内容の訂正(修正申告又は更正の請求)を行ってください。引用元:国税庁 暗号資産に関する税務上の取扱いについて(Q&A)
つまり、確認が可能な部分から取得価額や売却価額を確認して計算しなさいということですが、恐らくこれだけでは情報が不足していて集計が難しいケースもあるでしょう。
ただ、単にデータが出ないからといって、確認しなくてもOKとはならないことがお分かり頂けるかと思います。
取得価額の分からない暗号資産を売却した時は?
売却した時の対応についてですが、上記のQ&Aの引用文の続きに「なお、売却した暗号資産の取得価額については、売却価額の5%相当額とすることが認められます」とあります。
これは、例えば暗号資産を500万円で売却した場合、その暗号資産の取得価額を売却価額の5%相当額である25万円としても良いですよということです。
中には、実際の購入時には25万円より高かったハズなので、そんなに低い取得価額だと475万円の利益になって、税金も多くなるじゃないかと思われるかもしれません。
しかし取得価額がわからない場合、分からない以上は取得価額を0円として計算することになるかと思いますが、売却した金額そのものである500万円に税金がかかる事に比べれば、5%(25万円)でも計上が認められるという事が決まっていますので、まだマシと言えるかもしれません。
まとめ
冒頭でお話ししたFTXトレーディングの例で言いますと、令和4年中に出金ができるかどうか分からない事態になった場合、あくまでも令和4年にその資産を持っているものとして所得の計算を行う事になり、令和4年中の利益と相殺することはできないという考え方になります。
今後、どのような扱いになるかはわかりませんが、今回解説させていただいたような、ちょっとした思い違いで申告せず、実はそれが申告漏れだったと後からわかった場合、本来払うはずだった税金だけでなく、ペナルティの税金も支払う必要があります。
関連記事>>>『FXや仮想通貨の無申告や脱税などペナルティの種類と対応策について』
そのため、暗号資産やFXで損をしたとしても、「損している=申告しなくて良い」ではなく、その損の内容が、他の雑所得の利益と相殺できるものかどうかの確認をしておくことは重要です。
余談ですが、これから口座を解約される場合、解約後は報告書が発行されない、データが取得できないケースも考えられますので、必ず事前にデータを取得してから解約手続きを行うことをおすすめします。
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