この記事を書いている人
税理士 堀 龍市
投資専門会計株式会社 代表取締役
税理士(近畿税理士会所属 登録番号092469番)
FXや仮想通貨、株式やバイナリーオプション等、投資の税金対策や法人化に精通。
有名トレーダーをはじめ全国の投資家らの税務顧問を多数担当し、専門誌での連載などメディア実績多数。
業務にはオンラインも活用し、北は北海道から南は沖縄の離島までクライアント実績を持つ。
毎年、確定申告の時期が近づいてくると、それらに関する問い合わせや質問が、弊社へ多く寄せられるのですが、中でも多いのがFXや暗号資産(仮想通貨)の経費についてです。
過去のブログ等これまでは、個人名義でのFXや暗号資産などの節税対策は「いかに適切に経費を計上するか」が重要になりますよ、また経費の範囲は思っているよりも狭いものですよ、と解説しておりましたが、国税より所得税の通達の改正があり、FXや暗号資産の経費の範囲は、これまでよりも更に狭くなると考えられています。
なので今回は、これからのFXや暗号資産など、雑所得に該当する所得の経費の考え方について改めて解説致します。
FXや仮想通貨(暗号資産)が該当する雑所得が更に3つに分かれた?
まず順を追って解説するために、FXや暗号資産(仮想通貨)の所得として該当する「雑所得」について見ていきましょう。
これまでもブログ等で「税法は毎年変わりますよ」と書いてまいりましたが、実はそれに伴って、申告書の様式や記載するルールなども少しずつ変わってきています。
例えば雑所得だけを見ても、平成30年までは確定申告における雑所得の欄は1つでしたが、平成31年(令和元年)分からは雑所得が「公的年金等」と「その他」に分かれ、令和2年分からはさらに「業務」が増えて3つになっています。
雑所得の「業務」ってなに?
そもそも個人の所得税のルール上、事業所得や譲渡所得など、全部で9つある所得の区分のどれにも該当しないものが「雑所得」として扱われます。
そして先程、雑所得の区分で「公的年金等」と「その他」に加えて「業務」が増えたと書きましたが、この新たに出てきた「業務」とは、元々「その他」と同じ扱いだったのです。
令和元年までは、営利目的で継続的に行っているが、その活動が事業所得に該当しない程度(例えばサラリーマンの副業)だった場合でも、FXや暗号資産などとひっくるめてその他の雑所得に該当する形でした。
これが営利目的で継続的に行っているが、事業所得に該当しないような所得については「業務に係る雑所得」として申告する形となりました。
なお、令和4年以降は、以下のような扱いになります。
令和4年分以後の所得税において、業務に係る雑所得を有する場合で、その年の前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超える方は、現金預金取引等関係書類を保存する必要があります。
(注)「現金預金取引等書類」とは、居住者等が上記の業務に関して作成し、または受領した請求書、領収書その他これらに類する書類(自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものは、その写しを含みます。)のうち、現金の収受もしくは払出しまたは預貯金の預入もしくは引出しに際して作成されたものをいいます。
引用元:国税庁 No.1500 雑所得
なのでまず、その所得が業務に係る雑所得に該当する場合、2年前(令和4年分の申告であれば令和2年分)の収入金額が300万円を超えていれば、帳簿をつけなければならなくなりました。
FXや暗号資産(仮想通貨)は「業務に係る雑所得」には該当しない?
それらを踏まえて、上記の改正があった直後にも多くご質問いただきましたが、300万円という部分だけを見て、FXや暗号資産もその「業務に係る雑所得」に該当するんだろうと考えておられる方も少なくありませんでした。
しかし、結論から言ってそれは難しいことだと思われます。
と言いますのも、その所得が業務に係る雑所得に該当するのかを判断するときには、事業所得に該当するのかも判断することになります。
過去のブログでもお伝えしていますが、事業所得については裁判での判断があり、原則社会通念で判断することになります。
よって社会通念で判断した時に、事業所得に該当するのであれば事業所得として申告することになるでしょうし、事業所得と称するには至らない所得であれば、業務に係る雑所得として申告することになるという考え方になります。
また、先物取引に関する過去の裁判では「(先物取引は)事業には該当しない」という判例もありますので、総合的に考えてFXや暗号資産が事業所得や業務に係る雑所得に該当すると考えるのは非常に難しいでしょう。
関連記事>>>『税理士が教えるFXを個人事業として青色申告することのリスクとは?』
結果として、FXや暗号資産は「業務に係る雑所得」には該当せず、「その他の雑所得」として申告するものとして、次章でお伝えする経費の範囲も判断する必要があると考えられます。
雑所得の「業務」が分かれると経費の範囲も変わるの?
先程、雑所得の「その他」から「業務」が分かれたと書きましたが、実はこの業務が区別されることによって経費の考え方も変わると見られています。
まず、先ほどお伝えした通り、FXや暗号資産が「業務に係る雑所得」に該当しなければ、「その他の雑所得」に分類されることになります。
これまで当ブログでも、雑所得(FXや暗号資産)で経費と考えられるものとして、このようなものが考えられるという例を挙げておりました。
- 売買(取引)手数料や入出金に関する振込手数料
- (仮想通貨の場合)その取得費
- 通信費(取引にかかった分のインターネット接続費用や、口座開設時の郵送代など)
- 研修費(FXや仮想通貨取引に関するセミナーの受講費など)
- 研修を受けるためにかかった交通費や宿泊費
- 新聞図書費(FXや仮想通貨などの投資に関する書籍や雑誌など。また投資に関するE-BOOK や配信サービス等の費用など)
- 事務用品費(トレードに使った分の、コピー代や筆記用具、プリンタのインク代など)
- FXや仮想通貨取引に関する器具・備品・消耗品費
これを見ると範囲は狭いものの、計上できると考えられる経費がいくつかありました。
実はこれらは、現在で言う雑所得の「業務」に該当する部分が「その他」と一緒になっていた事で、販管費に該当する部分については認められると考えられていたためで、雑所得の「その他」から「業務」が分かれることで、これからは認められなくなると考えられています。
つまりFXや仮想通貨(暗号資産)の経費はこうなる?
今までも経費になる範囲について、一般的に思われているよりも狭いものですよとお伝えしておりましたが、これ以上狭くなったら経費なんて無くなるのでは?と思われる方も多いでしょう。
残念ながらその通り、FXや仮想通貨(暗号資産の)経費はほぼ無くなると考えられています。
雑所得で「業務」が分かれた事により、その他の雑所得の経費から販管費(いわゆる通信費やパソコン代など)は省かれ、売却原価と売買手数料のみ(いわゆる直接原価項目のみ)になると見込まれています。
現在はまだ税理士によって見解が分かれている状態ですが、これまでの経過を鑑みても、上記のような扱いに変わっていくものと思われます。
FXや暗号資産(仮想通貨)の節税対策は?今後の対策について
過去に個人で行うFX取引や暗号資産は「いかに適切に経費を計上するか」がポイントだとお伝えしていましたが、これも売却原価(取得費)や売買手数料だけが経費という考え方になれば、個人で行うFXや暗号資産でできる節税対策は基本的になくなるということになります。
ちなみに、ふるさと納税が節税になるのかどうかもよく相談をいただきますが、それについては以下にまとめてありますので、こちらを御覧ください。
関連記事>>>『税理士が教える!ふるさと納税はFX投資家の節税になるのか?』
解決策としては、ここまでお伝えしてきた雑所得については個人のお話ですので、法人化をしてFXや暗号資産の取引を行うという方法があります。
むしろ、海外口座のFXや暗号資産は、総合課税となり最大で55%課税されてしまいますので、利益が見込まれる方は法人化された方が節税効果が高いと考えられますが、もちろんメリット・デメリットが存在しますので、それらを理解された上で選ばれることをお勧めします。
《関連記事》
・『海外FX業者の税金はいくらかかるの?間違えたら税務署が来た!』
・『FX法人化のメリットとデメリットを専門家が解説』
・『法人化して仮想通貨取引を行うメリットとデメリット?』
国税庁のサイトには暗号資産にも経費はあると書かれているが?
先に説明させていただいた通り、雑所得の「その他」に該当する所得における、経費の範囲が極めて狭くなりますので、暗号資産(原則雑所得のその他に該当)についても同様の扱いになると見込まれます。
ただ国税庁のホームページには、令和4年12月22日付のFAQで以下のように書かれています。
暗号資産の売却による所得の計算上、必要経費となるものには、例えば次の費用があります。
- その暗号資産の譲渡原価
- 売却の際に支払った手数料
- このほか、インターネットやスマートフォン等の回線利用料、パソコン等の購入費用などについても、暗号資産の売却のために直接必要な支出であると認められる部分の金額に限り、必要経費に算入することができます。
引用元:国税庁 暗号資産に関する税務上の取扱いについて
これをみると、インターネット代やパソコン代も経費になるとも読めますが、以下のような注意書きもあります。
暗号資産取引に係る利用料を明確に区分できる場合に限り、その明確に区分された金額を必要経費に算入することができます。
引用元:国税庁 暗号資産に関する税務上の取扱いについて
実はこの「明確に区分できる場合に限る」というのがポイントになってきます。
「明確に」と言うと、一番わかり易いのはトレードのための専用回線を引いているというイメージでしょうか。
これも別回線を引いていれば、単純に経費にしてOKだという事ではなく、あくまでもそのくらい明確である必要があるものですよということです。
税理士費用は経費にならないの?
確定申告に関して、「税理士費用は経費になりませんか?」というご相談も受けるのですが、ここまで挙げてきた雑所得の経費のルールから考えると、その収入を得るために必要と言うよりは、すでに得た収入を申告するために必要な費用と考えられるため、新しい解釈では、雑所得の経費には該当しないと考えられるでしょう
(同様の理由で、暗号資産の収支計算にかかる費用も同様に雑所得の経費には該当しないと考えられます)。
ちなみに「それだと税理士さんに頼むメリットはないのでしょうか?」とおっしゃられるケースもあるのですが、「税理士費用が雑所得の経費になること」を最重要視されている方にとっては、確かにメリットがないと言えるかも知れません。
ただ、先ほど暗号資産の経費について、
「これも別回線を引いていれば、単純に経費にしてOKだという事ではなく、あくまでもそのくらい明確である必要があるものですよということです。」
と書きましたが、こういった基準が曖昧な場合、税務署は調査で否認してくる可能性が非常に高いです。
これらは一例ですがそのような際に、果たしてプロの調査官に法律を理解した上で太刀打ちできるかどうかという問題や、毎年一定数おられるのが「仮想通貨の確定申告が難しくて分からず、近くの税理士にお願いしても専門外だと断られました……」というケース、また「本業やトレードが忙しくて確定申告に割ける時間がない」という方も多くいらっしゃいますので、依頼をするメリットについては、何を重要視されているかによるでしょう。
関連記事>>>『知らないと恐い?FXの税務調査の実体を教えます』
まとめ
今回は、FXや暗号資産など、雑所得でも「その他」に該当する場合の経費の考え方について解説致しました。
このように税金は、昨年までOKだったものが今年からNGということもよくあります。
もちろん「知りませんでした……」は通用しませんので、税務署から間違いを指摘されてペナルティーを請求されるようなことにならないよう、ご自身で申告される方は変更された内容を理解した上で、正しく確定申告を行うようにしましょう。
関連記事>>>『FXや仮想通貨の無申告や脱税などペナルティの種類と対応策について』
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