この記事を書いている人
税理士 堀 龍市
投資専門会計株式会社 代表取締役
税理士(近畿税理士会所属 登録番号092469番)
FXや仮想通貨、株式やバイナリーオプション等、投資の税金対策や法人化に精通。
有名トレーダーをはじめ全国の投資家らの税務顧問を多数担当し、専門誌での連載などメディア実績多数。
業務にはオンラインも活用し、北は北海道から南は沖縄の離島までクライアント実績を持つ。
ご存知の方も多いでしょうが、競馬予想ソフトを使って投資として競馬を行った場合の、払戻金の所得の区分をめぐる裁判の控訴審が、2014年5月9日に大阪高裁で開かれました。
この裁判は、競馬ファンのみならず、競馬を投資として捉えて行う、いわゆる「投資競馬」を行っている方々にとっても非常に興味深い内容かと思います。
また、他の投資の税金にも関係してくることで、税務申告の方法を間違えると税務署からペナルティーを課せられる可能性も考えられますので、今回はこの裁判の内容を見ながら、FXでも質問の多い所得の区分について考えてみたいと思います。
そもそも今回の投資競馬の裁判とは?
この裁判もそうなのですが、税務調査などにおいても所得の区分が問題になることは結構多くあります。今回の裁判も、一言で言ってしまえば、競馬による馬券払戻金である利益(所得)が、「一時所得」なのか「雑所得」なのかを争っているものです。
税務署側としては、一円でも多く税金を徴収したいので、「一時所得」として、負けた馬券については経費として認めたくはない。
投資家側としては、一定のルールに基づき、複数の馬券を買うことで、確率的にトータルでプラスを狙っているのだから、「雑所得」として、外れ馬券を含めた全馬券の購入費用を必要経費として差し引くことができるはずだと訴えていたわけです。
一時所得と雑所得とは何か?
少し難しくなりますが、税法上、これらの「所得」は以下のように分けられます。
一時所得とは、
「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた、所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。」(所得税法第34条第1項)
とされています。
一方、雑所得とは、
「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。」(所得税法第35条第1項)
とされています。今まで一般的には競馬や競輪などの払戻し金は「一時所得」であると考えられてきました。なので税務署側の主張としては、負けた馬券は経費として認めないということでした。
投資競馬における馬券払戻金裁判の判決は?
今回の最高裁判決では、被告人である元会社員が購入した馬券の払戻金に係る所得は、雑所得に該当し、ハズレ馬券を含めた全馬券の購入費用が必要経費として控除できると判断した大阪高裁判決を支持し、検察(国)側の上告を棄却、納税者の勝訴が確定しました。
現行、競馬の馬券の払戻金は、所得税法基本通達34-1(一時所得の例示)に掲げられており、臨時、偶発的な収入であることから、馬券購入の態様等に関わらず、一律一時所得として取り扱われていますが、今回の最高裁判決の内容を受け、国税庁は所得税法基本通達の改正を予定しています。
つまりこの裁判では、今回のケースにおける馬券の購入は、「営利を目的とした継続的行為に当たる」として、その払戻金は雑所得であると判断され、FXと同じく勝ちトレードの利益から、負けトレードの損失を引けるということです。
但し、これをそのまま鵜呑みにしてはいけません。
今回の裁判で、皆さん誤解しないでいただきたいのは、この判決によって全て「競馬の払戻金=雑所得」と判断された訳ではないということです。
あくまで、被告の馬券購入における状況(購入金額や回数など)を総合的に判断した結果、今回のケースにおいては雑所得と判断されたということなので、税務調査の現場を考えても重要なのは「所得の区分はあくまでも実態に基づいて判断される」ということです。
FX投資の場合でも同じ
投資であるFXにおいても、個人の場合は基本的に雑所得の申告分離課税として申告することになりますが、(但し、海外のFX業者等を使われている場合にはこの限りではありませんので、
関連記事>>>「海外FX業者の税金はいくらかかるの?間違えたら税務署が来た!」をご覧下さい)、
よくある質問として、
「FXのキャッシュバックやボーナスは確定申告をする必要がありますか?」
と聞かれることがあります。FX業者のホームページを見ると「キャッシュバックボーナス = 一時所得」などといった、いわゆる「○○=○○所得」といった公式のような説明を目にすることもありますが、今回の投資競馬の判決を見ても、必ずしもこのような説明に当てはまるわけではありません。
FXのキャッシュバックボーナスなどについては、以下の関連記事に詳しくまとめてありますので、こちらも併せてご確認下さい。
関連記事:「FXのキャッシュバックボーナスやキャンペーンにも税金はかかる?」
今回の判決も、馬券の払戻金について、この元会社員のように「営利を目的とした継続的行為から生じたもの」の場合には、雑所得に該当すると考えられますが、従前のような馬券の買い方をしたものについては、今まで通り一時所得に該当することになります。
事前に確認をとってから確定申告をするのが無難
その為、一つの解決策として、所得の区分について判断に迷った時には、申告書を提出する前に、弊社に限らず、この分野に明るい専門家や、管轄の税務署に一度相談してみられることをお勧めします
(実際、証券会社等のホームページにも、「詳細は税理士など専門家にお尋ねください。」と小さく書いてあることが多かったりします)。
但し、税務署の職員さんは単なる公務員なので、正しい回答を得られるとは限りません(実際に、FXには経費はないなど、よく間違ったことを言われます……)
対策としては、回答して下さった方の部署や名前を控えておくなど、このアドバイスに基づき申告をしたという客観的証拠を残しておくことで、ペナルティーを逃れることも出来ますので、詳しくは以下の記事をご参照下さい。
※この度、所得税の改正通達があり、FXや暗号資産における経費の範囲が縮小されました。新しい情報はリンク先の記事をご参照下さい。
>>>『【悲報】FXや仮想通貨(暗号資産)の経費が認められなくなった?』
関連記事:「FXの確定申告で必要経費となるもの、税務署の判断基準とは?」
本来納める必要のない税金までとられている可能性が?
もう一つ重要なことは「通達による課税はできない」ということです。
つまり、税金は「法律」に基づいて課されるべきものであり、法律ではない「通達」に基づいた課税は本来できなません。
あまりピンと来られないかも知れませんが、実は非常に重要なことで、要するに、通達は法律ではないため、国側が裁判に負ければ今回のように改正されます。
しかし、税務調査などの現場では、調査官は自分の成績をあげようと、そんなことはお構いなしに、通達による課税というものを日常的に行っており、既に横行してしまっているので、通常、税理士というのは税務のプロであり、法務(法律)のことは専門外のため、もし上記のことを理解しておられない税理士さんや会計士さんに税務対策を依頼をしていた場合は、皆さんが知らない間に、そのまま応じられて徴収されてしまっているケースもあります。
そのため弊社では、日頃から税務のみならず、関係のある法務についての研究も行っているのですが、なかなか素人が、毎日調査ばかりをやっている百戦錬磨の調査官に太刀打ちするんは難しいかも知れません。
ただ実際には、そのような税金は納める必要は全くありませんので、もし既に依頼をされている税理士さんや会計士さんが、そのまま出されそうになった場合は、事業主のあなたが止めるべく、しっかりと覚えておくようにしましょう。(2015.4.16)
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※上記の内容は記事発行時のものです。税法は毎年変わります。現在のリアルタイムな税金対策の内容や、何かご不明な点がございましたら、お電話や以下のメールフォームからお気軽にお問い合わせ下さい。また、今よりどれだけ節税できるかの目安となる「シミュレーションのサンプル資料」を無料で差し上げております(もちろん相談されても、こちらから契約を迫ったり、セールスや勧誘等を行う事は一切ございませんのでどうぞご安心下さい)。