この記事を書いている人
税理士 堀 龍市
投資専門会計株式会社 代表取締役
税理士(近畿税理士会所属 登録番号092469番)
FXや仮想通貨、株式やバイナリーオプション等、投資の税金対策や法人化に精通。
有名トレーダーをはじめ全国の投資家らの税務顧問を多数担当し、専門誌での連載などメディア実績多数。
業務にはオンラインも活用し、北は北海道から南は沖縄の離島までクライアント実績を持つ。
日頃から、毎月の無料相談会などで皆さんからのご相談を伺っていますと、
「他人名義(配偶者や両親、知人など)の口座を使ってトレードをしているのですが……」
といった口座名義に関する危ういご相談を受けることがあります。
例えばよくあるケースとしては、現在、お勤めをされながらトレードをしておられる方で、副業禁止の規定がある場合など、会社に対してトレードでの収入をバレないようにしたいと考えておられる方が非常に多く、そのために他人名義の口座を使われている方、
また、アービトラージなどの手法を行いたいということから、複数の口座が必要になり、契約書を交わして他人名義の口座を使わせてもらっている方などが多い印象です。
そもそも、複数口座や他人名義の口座を使ってトレードをすることは、各業者の口座開設時に出て来る「約款」に抵触している可能性もあり、場合によっては口座凍結される恐れもありますが、それ以外にも実は税金面でのリスクもはらんでいます。
深く考えずに安易な気持ちで他人名義の口座を利用してしまうと、後で税務署から指摘をされたり、ペナルティーの罰金を科せられる可能性もありますので、今回は、他人名義の口座を利用することで起きる【税務上の危険性】について解説してみたいと思います。
税法の世界には「実質所得者課税の原則」というものがある?
税務の現場をご存知ない方だと、あまりピンと来られないかも知れませんが、まず大前提として、税法には名義よりもその収入は実際は誰のものなのかということが、原則的に重視されます。
これを「実質所得者課税の原則」と言い、所得税法、法人税法のそれぞれで次のように規定されています。
第十二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。
引用:所得税法第12条より
第十一条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。
引用:法人税法第11条より
具体的に説明しますと、例えばご本人が、妻名義の証券口座を利用してトレードを行っていたとしましょう。
しかし、実際にトレードをしているのは本人で、妻の名義は形式上利用しているだけだったとすると、税法の原則から言えば、そのトレードの収入は、名義人である妻ではなく、すべて実質的にトレードをされているサラリーマンの方ご本人のものであると考えられます。
そのことから、色々と問題が出てきますので、まずはそのことを理解しておいて下さい。
FXや仮想通貨で他人の名義を利用していることの具体的なリスクとは?
では、それを踏まえた上で、実際にどういったリスクが想定されるかについて、いくつかのパターンを見ていきましょう。
確定申告や納税を行っていても他人名義だと追徴課税される?
前述のように、本人が、妻名義の証券口座を利用してトレードを行い、確定申告も妻の名前でしっかりと申告し、税金もきちんと納めていたとしましょう。
このようなケースでは、どのようなリスクが考えられるでしょうか。
ここでは仮想通貨取引や、海外業者を利用したFXを例に考えてみましょう。
個人で行う仮想通貨取引や、海外業者を利用したFXでの所得は「総合課税」と言い、他の所得と合算した上でその所得金額に応じて税率が決まります。
例えば、本人には、給与収入が年に数百万円あり、一方で妻は専業主婦で収入がないといった場合、仮想通貨や海外FXの所得と合算すべき「給与所得」がある本人の名前で申告をするよりも、他に合算すべき所得のない妻の名前で申告をすることによって、税金の負担額が減るというケースは十分に想定できます。
この場合、前章で説明したとおり、本来、トレードでの所得は本人の所得であると言えるため、税務調査が行われれば、当然妻の名前で申告していた利益は、全て本人の利益として申告し直し、追加で税金を納めることになり、更にはペナルティの税金まで課されてしまうこととなります。
それならば、国内業者を利用したFXなら、誰の名前で申告したとしても一律20%の分離課税なので問題ないのでは?と思った方もおられるのではないでしょうか。
実は、この問題が回避できたとしても、さらなるリスクが想定されるケースがあるのです。
名義人からの資金移動が贈与とみなされる可能性がある!?
会社にバレたくない等の理由で、妻がトレードを行っていることにして確定申告をしている以上、その利益は妻のものとなります。
そのため、儲けたお金を自分が使うためには、妻からそのお金を受け取らなければなりません。
なので場合によっては、この妻からお金を受け取る行為は「贈与」とみなされ、ケースによっては贈与税が課税されるといったことが想定されます。
「夫婦なんだから、普段から生活費なんかのお金のやりとりはしていて、そこには贈与税なんてかかっていないのに…?」
という意見も聞こえてきそうですが、それは贈与税が非課税となるものの中に
夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの
引用:国税庁ホームページ タックスアンサーNo.4405 贈与税がかからない場合」より
という決まりがあるためです。
ちなみに、例え夫婦間や親子間であっても、
生活費や教育費の名目で贈与を受けた場合であっても、それを預金したり株式や不動産などの買入資金に充てている場合には贈与税がかかることになります。
引用:国税庁ホームページ タックスアンサーNo.4405 贈与税がかからない場合」より
とされています。
関連リンク>>>『国税庁ホームページ タックスアンサーNo.4405 贈与税がかからない場合』
FXや仮想通貨で法人化した後に、個人名義の口座を利用していた場合は?
トレードをするための法人を設立した場合、出資も全額自分が行い、代表も自分なので、あまり深く考えずに個人名義の口座の利益を法人のものとして申告できると考えておられる方がたまにおられます。
しかし、法律上、個人と法人は別人のため、代表の個人名義の口座で口座名義人本人(代表者)がトレードをしていれば、それは実質、代表者個人の所得であると指摘されるリスクは十分に想定できるので、税務調査の現場で、調査官がそのように主張してくることは大いにあり得ます。
関連記事>>>『XMやハイローオーストラリアなど法人口座がない業者は個人でOK?』
税務上以外にも、FXや仮想通貨で他人名義や複数口座を使うリスクは大きい?
冒頭でも少しお話しましたが、
「アービトラージ等の手法を行うために、複数口座が必要になるので、他人に口座を開いてもらって、それを使っています。その方と使わせてもらう契約書も交わしているので税金面でもなんとかなりませんか?」
とおっしゃる方がたまにおられます。
税務上のリスクは上記でお伝えしましたが、そもそもアービトラージや、他人名義、また本人名義であっても複数口座を使うことを約款上で禁止している業者は非常に多く、口座開設をする際にそれを了承して開設申請をしているわけですから、仮に契約書を交わしていたとしても、税務上のリスク以外にも、口座を凍結されたり、それでも納得がいかない場合は裁判ということにもなるかと思われます。
その辺りのことは税務ではなく法務の分野になりますので、それらに詳しい弁護士さん等に聞かれることをお勧めしますが、以下にも少しまとめてありますので、興味のある方は参考になさって下さい。
関連記事>>>『FXのアービトラージで口座凍結以外の恐ろしいリスクとは?』
まとめ
トレードでの収入があることを率先して会社に言いたいという人はあまりいないでしょうし、他にも先のアービトラージや、自分の口座だけでは取引回数に制限があるなどといった理由で、他人名義の口座を使うという考えに至ってしまうこと自体は分からなくもありません。
しかし、たとえ身内であったとしても、他人の名前を使うということは、税金の面から考えても、ここまで解説したように非常にリスクの高い行為なのです。
口座名義について安易に考えていたために、気づかないうちにリスクを冒してしまい、余分な税金を支払うことにならないよう充分ご注意ください。
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