この記事を書いている人
税理士 堀 龍市
投資専門会計株式会社 代表取締役
税理士(近畿税理士会所属 登録番号092469番)
FXや仮想通貨、株式やバイナリーオプション等、投資の税金対策や法人化に精通。
有名トレーダーをはじめ全国の投資家らの税務顧問を多数担当し、専門誌での連載などメディア実績多数。
業務にはオンラインも活用し、北は北海道から南は沖縄の離島までクライアント実績を持つ。
弊社は日本初の、FXや暗号資産など投資に関する専門の会計会社(税理士事務所)ですので、日々全国からそれらに関する問い合わせをいただくのですが、
「ネット上で自分なりに調べてみたんですけど、色んな意見があってどれが正しいのか分からなくて……」
とおっしゃる方や、また
「他の税理士さんに聞いたところ、FXの税金の細かい内容については分からないので、それらに詳しい税理士さんに聞いて下さい、と言われまして……」
とおっしゃる方が結構おられます。
中でも、よく分からないとご相談を受ける内容の一つが「特に海外業者に多い、FXやバイナリーオプションの業者から貰えるキャッシュバックやボーナスにも税金はかかりますか?」という質問です。
これについては、以前にも書かせていただきましたので、そちらもあわせて参照いただけたらと思うのですが、更に突っ込んだ内容として
「出金できないボーナスは、現金化できないので税金はかからないですよね?」
とおっしゃる方が結構おられます。それについて、実際の判例などを見ながら解説してみましょう。
FXのボーナスやキャッシュバックに税金がかかるかどうかの判断基準は出金可能かどうかなの?
主に海外のFX業者やバイナリーオプションの業者で実施されている、入金ボーナスやキャッシュバックキャンペーンですが、対象となるボーナスが証拠金として付与されることも多いので、それを使ってトレードされている方も多くおられるかと思います。
そんなFXやバイナリーのボーナスですが、「証拠金として使うことは出来るが、現金として引き出すことは出来ないので税金はかからない」と書かれたネット記事等を見かけます。
引き出せないなら税金はかからないと考えられるのも分からなくはありませんが、税法上、実際にはどうなのでしょうか?
所得税法にはこう書かれている!
さすがに「FXのボーナスには税金かかりますよ」と、税法に具体的に書かれているわけではありませんので、まずは所得税の基本的な考え方から見ていきましょう。
その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。
引用元:所得税法第三十六条
ここで言う収入すべき金額とは、収入すべき権利の確定した金額であるとされています。
少し難しい表現ですが、この基準を一般的に権利確定主義(基準)と言います。
権利確定主義(基準)とは?
結論から申しますと、所得税法上は、現金主義ではなく、権利確定主義を採用しています。
難しい言葉が続きますが簡単に言うと、すでに貰ったかどうかでなく、貰うことが決まったらその年の収入に含んでくださいねということです
(その年の収入と判断する方法は、その所得の内容によってはこのタイミングで収入とすると細かく決まっているものもありますが、今回は基本的な部分を考えていきます)。
この権利確定主義を採用する理由としては、現金の収受についてはそのタイミングの操作が可能であり、それが租税回避(本来の税金を免れようとする行為)に用いられる可能性が高い事が挙げられます。
そういった事もあり、税金をしっかりと徴収するために、誤魔化される可能性のある「入金のタイミング」ではなく、「入金される(お金が貰える)ことが決まったタイミング」で課税するルールにしているのです。
例えば、分かりやすくお商売での例をあげますと、AさんがBさんに商品を販売した場合、AさんからBさんに商品の所有権が移り、BさんにはAさんに対して代金の支払いの義務が生じます。
この支払を後からするケースをAさん側から見ると「売掛金」と言います。
実際にはAさんはまだ代金を支払ってもらっていませんが、その売掛金が発生した(売れた事が確定した)タイミングで収益として計上しましょうというのが権利確定主義なのです。
法人税の場合は?
先ほどの説明は個人の所得税の場合ですが、法人税での例を解説しますと、
貸付金等から生じる利子は発生主義で計上します。
つまり利子を受け取ったときではなく、利子を受け取る権利が発生した時になります。
また、配当等から生じる利益は配当確定基準で計上します。
これも配当を受け取ったときではなく、配当を受け取る権利が発生した時になります。
若干言い回しは異なりますが、権利が発生したときが課税のタイミングとなるのは同じです。
FXのボーナスの税金に関して裁判の判決は?
実は今回の内容に関係してくるものとして、平成25年12月25日さいたま地裁にて、FXの裁判で原告の請求が棄却された資料があります。
参考までに記載しておきますが、今回のお話に関連のある部分を主に抜粋していますので、読み飛ばして頂いても構いません。
どういった内容で争ったかと言いますと、
【原告(納税者側)の主張】
原告は、本件各係争期間の12月31日時点において、本件FX取引損益額を本件FX取引口座から引き出しておらず、現実には1円も受け取っていないことからすれば、本件FX取引損益額に対して課税を行った本件決定処分等は違法である。
引用元:国税庁 税務訴訟資料より一部抜粋
【被告国の主張】
本件売買差損益金及び本件スワップポイントについては、建玉を反対売買により決済した時に、また、本件キャンペーン賞金については、Aから当該賞金が本件FX取引口座に入金された時に、収入すべき権利が確定するものと解される。
引用元:国税庁 税務訴訟資料より一部抜粋
ざっくりと解説しますと、納税者側は「1円も現金を手にしてないのに税金がかかるのは誤りだ」とし、国は「決済した時に収入と考え課税は誤りではない」という内容で争ったものです。
結論として裁判所は原告の主張を棄却しました。
所得税法36条1項は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという制度、いわゆる権利確定主義を採用しているものと解される。
(中略)
本件キャンペーン賞金については、本件FX取引口座に入金がされた時に、収入の原因となる権利が確定するものといえる。
本件FX取引損益額は、その収入の原因となる権利が確定した時点で原告の課税対象となる所得を構成することとなるのであって、これと異なる原告の上記主張は失当である。
引用元:国税庁 税務訴訟資料より一部抜粋
つまり先ほどからお伝えしてきた通り、この裁判でも、現金を手にしているかどうかではなく、権利が確定したタイミングで課税されるということが明らかになったわけです。
これを踏まえて、出金(現金化)することの出来ないボーナスも、権利確定主義の考え方から、入金された時点で収入の一部とみなされると考えられますので、出金(現金化)できないから課税されないという考え方には無理があると考えます。
逆にボーナスを使ったトレードで損失が出た場合は?
余談ですが、こんなメールでの質問もありました。
「FXの入金ボーナスを利用したトレードでの損失は、損失計上出来るのか?」
というものです。
最初、トレードでの損失は、損失として計上するのは当たり前だと思ってこちらも読んでいました。
しかし質問を読み進めていくと、ボーナスは税金がかからないから所得として計上しないが、そのボーナスを利用して出た損失は、トレードによる損失だから計上できるのかという内容だと分かったのです。
そもそも、先ほどからお伝えしている「ボーナスに税金がかからない」の部分からして既に間違いなのですが、残念ながらそのように都合の良い方だけを計上するという事ももちろん出来ません。
質問をされた方も、なんとなく疑わしいと思ったからこそ弊社に確認してこられたのだと思いますが、皆さんも間違った認識をされないようお気を付け下さい。
まとめ
インターネット上には便利な情報もたくさんありますが、中には今回書かせていただいたような間違った内容も多く、とある海外FXの業者のQ&Aにも「ボーナスには税金はかかりません」と書かれており、非常に危険だと日々感じています。
これは以前から何度もお伝えしていることでもありますが、特に税法というのは毎年改正がありますし、例えば上記の海外FX業者のサイトを見て書いた記事が広がり、それを元にまた書かれたりと、間違った情報が量産されることもよくあります。
つまり、
- 検索上位に似た内容の情報がたくさんあったので正しいだろう
- プロのトレーダーが言っているので間違いないだろう
と、情報を鵜呑みにしてしまうことは非常に危険なのです。
そういったあやふやな情報を基に申告してしまうと、後に税務署からいらぬペナルティをかけられる可能性もありますので、少なくとも
- 誰が書いている情報なのか?(税理士等の専門家か?トレーダーであっても税務の素人か?)
- いつ書かれたものなのか? (税法は毎年改正があります)
上記2点は押さえておきましょう。
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