この記事を書いている人
税理士 堀 龍市
投資専門会計株式会社 代表取締役
税理士(近畿税理士会所属 登録番号092469番)
FXや仮想通貨、株式やバイナリーオプション等、投資の税金対策や法人化に精通。
有名トレーダーをはじめ全国の投資家らの税務顧問を多数担当し、専門誌での連載などメディア実績多数。
業務にはオンラインも活用し、北は北海道から南は沖縄の離島までクライアント実績を持つ。
弊社はFXや仮想通貨(暗号資産)などの投資の税務を専門でさせていただいていることもあり、それらに関する問い合わせやご相談が全国から寄せられます。
よくある内容の一つとして、過去のブログでも取り上げていますが
「海外へ移住したら日本の税金はかからないですよね?」
とおっしゃる方が結構おられます。
おそらく、海外に移住すれば非居住者になって日本に税金納めなくて良くなるよね?ということをおっしゃりたいのだと思いますが、実はそんな単純な話ではありません。
結論から申しますと、海外へ移住したとしても日本での税金がかからなくなるとは言い切れません。
なぜこのような曖昧な回答になるかというと、税法上は日本の非居住者であれば、国内源泉所得以外の税金はかからないのですが、必ずしも海外移住=非居住者とは言えないケースがあるのです。
また、出国後に移住先で税金がかからなかったとしても、その前の出国時に税金がかかる場合もあります。
過去の記事でも居住者か非居住者かの判断は難しいというお話は解説させていただいていますので、そこについては一旦置いておくとして、簡単なおさらいと、日本を出国する際に気をつけなければいけない点について解説したいと思います。
居住者か非居住者かでFXや仮想通貨(暗号資産)の税金が変わる?
先に少しだけおさらいをしますと、日本の居住者に該当する場合は、原則として国内だけでなく海外で得た所得も日本に税金を納める必要があります。
これを全世界課税と言います。
しかし、非居住者の場合、日本国内で稼得した「国内源泉所得」のみが課税対象とされますので、この国内源泉所得に該当しない所得なのであれば日本で税金を納めなくてよいという考え方になります。
※この非居住者の国内源泉所得の考え方については、令和4年分から改正がありましたが、今回は掘り下げませんので、詳細はまたの機会に解説させていただきます。
関連リンク>>>『国税庁 No.2878 国内源泉所得の範囲(平成29年分以降)』
実は、このような居住者か非居住者かの判断も重要ですが、それ以外にも出国までに気をつけるべき事があります。
税金に関する海外移住前に行うべき2つのこととは?
居住者か非居住者かの判断は難しいものですが、移住先がどこの国であれ、出国前に注意しておかなければならない点が大きく2点あります。
それは
- 出国までの所得は(準)確定申告が必要
- 日本の銀行口座や国内FXは口座解約が必要
ということなのですが、一つずつ見ていきましょう。
出国までの所得は(準)確定申告が必要
通常、個人の確定申告は1月1日から12月31日までの所得を翌年の2月16日から3月15日までの間に申告・納税します。
出国するまでに納税管理人を選出すれば、上記と同じ通常通りの期間に申告・納税を行いますので、そこまで急いで申告する必要はありません。
もし出国までに納税管理人を定めなければ、その年の1月1日から出国する日までの期間の所得を、出国までに申告・納税することになります。
仮に3月31日に出国するのであれば、1月1日から3月31日までの所得を出国するまでに申告・納税する必要があるという事になります。
これを準確定申告といいます。
基本的に申告対象の期間が短くなっただけで一般的な確定申告と基本的に同じです。
但し準確定申告では振替納税は使えない!
一般的な個人の所得税の確定申告(もしくは消費税の確定申告)の納税方法は、税務署に「納付書送付依頼書」を提出しておくことで、指定の金融機関の口座から税金が振替えられるよう手続きをする事が可能です。
登録の手続きをするだけで別途手数料もかかりませんし、現金を持ってウロウロする必要もありませんので、一番手軽な方法と言えるでしょう。
しかし、出国の際の準確定申告は通常の確定申告と異なり、「申告書の提出の日が納税の期限」となるため、振替納税は使えません。
準確定申告の納税額が確定すれば、先に納税して後から申告書の提出を行っても差し支えありませんが、先に申告書を提出して、後から納税した場合は期限後に納付した事になってしまいますので、必ず先に納税しておくようにしましょう。
国内FXや銀行口座を解約する
国内の銀行や証券会社は、基本的に日本の居住者に対して行っているサービスですので、国内在住でなければ利用できないようになっているケースがほとんどです。
そのため、出国までに解約しておくように案内している銀行や証券会社も多く、例えば、国内の大手証券会社のFAQでは「日本国外に居住されることとなった場合は、口座の解約が必要です。」と明記されています。
国内の証券会社の中には条件を満たせばそのまま使用が可能なケースもあるようですが、ごく一部かと思います(詳細は各銀行や証券会社に直接お問い合わせください)。
なお、海外の証券会社を利用されている場合は、そのまま移住先の国で利用することが可能であればそのままトレードも可能かと思いますが、国内FX同様に解約をしなければならない場合は事前に手続きをしておく必要があります。
例えば、アメリカであればアメリカ以外の国の業者の利用を禁止していたり、業者によってここの国の人はご利用いただけませんと明記されているケースもあります。
どちらにしても一度しっかりと条件を確認しておく必要はあるでしょう。
FX業者や仮想通貨取引所の口座を解約するということは?
中には、FXの口座で含み益や含み損のあるポジションを保有されている方もおられるかもしれませんが、口座を解約するということは残高をゼロにしますので、この保有しているポジションも決済してしまう必要があるということです。
個人で行うFX取引は、決済した損益の合計がプラスであれば税金がかかり、出国までに申告して納税することになります。
中にはポジションを未決済のまま持っておいて、海外に移住してから決済すれば(国によっては)税金はかからないですよね?とおっしゃる方もおられますが、国内FXであれば口座解約しなければならない可能性が高いですし、海外FXであっても、移住先の国でその口座が使用できないというケースも少からずありますので、一概にかからないとは言えません。
また、冒頭で触れた通り、海外へ引っ越した=非居住者にならない可能性もありますので、安易に税金がかからないものだと考えることはできません。
国外転出時課税という点も注意が必要
短期間の海外転出(例えば短期留学など)であれば関係ありませんが、移住される、長期で海外赴任される方が、対象となる資産を1億円以上持っている場合は、含み益にも税金をかけますよという制度があります。
節税のために海外に移住しようと考えていらっしゃる方の中には、1億円を超える対象資産を持っている方も少なくないと思いますので、こちらも注意が必要です。
ちなみに、対象資産は以下のように記載されています。
国外転出時課税の対象資産には、有価証券(※)(株式や投資信託など)、匿名組合契約の出資の持分、未決済の信用取引・発行日取引及び未決済のデリバティブ取引(先物取引、オプション取引など)が該当します(所法60の2①~③)。
※ 対象資産の有価証券の範囲から次に掲げる有価証券で国内源泉所得を生ずべきものを除きます。
① 特定譲渡制限付株式等で譲渡についての制限が解除されていないもの
② 株式を無償又は有利な価額により取得することができる一定の権利で、その権利を行使したならば経済的な利益として課税されるものを表示する有価証券引用元:国税庁 国外転出時課税制度FAQ
つまり、デリバティブ取引に該当するFX(外国為替証拠金取引)は対象資産に該当し、暗号資産(仮想通貨)は(上記のFAQでは直接的な記載はありませんが)有価証券にも該当しないと考えられるため、国外転出時課税制度の対象資産にはならないと考えられます。
まとめ
恐らく、まとめブログやSNSなどで「海外(タックスヘイブンの国)に移住したら税金がかからないから移住を検討しよう」といった記事があり、簡単にできるんじゃないかと思ってお尋ねいただいているようですが、実際はそんな簡単な話ではないということです。
しかし(弊社がブログ等の記事をお見かけした限りでは)、税理士ではなく一般の方が書かれているケースも多く、海外に引っ越せばOKという事ではないものも多くありましたので、移住検討には注意が必要です。
もちろん、転勤や転職、ご結婚など、そもそも税金に関係なく海外に移住することになる方も多いでしょうから、そのようなご状況になられた場合に、FXなどの投資を行っていたら、出国前に税金を納める必要があるかもしれない、ということは覚えておくようにして下さい。
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